その夜から浮遊霊達の宴は勇作に部屋では行われなくなった。彼等は理恵の提案通り場所を移したのだ。その宴はリサの寂しさを紛らわせるためのものだったが、リサは何故かその宴には参加せずに勇作の傍に居た。彼が安物のベッドの中に入っていると、その傍らでじっと見つめているのだった。
 それはそれで中々眠れるものではなかった。ベッドの傍らから常に視線を感じているのだ、その気配は彼の神経を研ぎ澄ませるには充分だった。
 何か話しかけてくれるのならまだ救いがあった。物言わぬ視線がこれほど怖いものかを勇作は初めて知った。
 ある夜、堪りかねて勇作はリサに話しかけた。
「なあリサ、一晩中そうしているのかい?」
 リサは不機嫌そうに答える。
「そうよ、悪いかしら?」
 相変わらず機嫌が悪い。
「姉さんの診療室に行けばみんながいるだろう?」
「私はねぇ、ただ寂しいんじゃない。勇作の傍に居たいの。勇作とお話ししていたいの。構って欲しいのよ!」
 リサの身体が青から赤い色に変わっていく。
 霊というものはその心の状態で色が変わるらしい。穏やかな状態の時は青く、怒りや恨みなどの負の感情の時は赤い光を帯びるらしい。そして赤ければ赤いほど、その霊は危険な存在となる。
 だが、勇作がそれを知るはずはなかった。ただリサをこれ以上怒らせてはいけないということは判っていた。
「そんなに起こるなよ。でも一晩中起きている訳にもいかないんだよ。仕事にも影響が出るしね」
「仕事なんか、辞めちゃえばいい…」
「そういう訳にもいかないだろう。仕事を辞めてしまえば此所にも居られなくなるんだ。それはリサだって嫌だろう?」
 二人の言葉に次第に感情が籠もってくる。
 それは良くないことだ、勇作は自分の声で気づき、心を静める様に呼吸を穏やかにしていった。
「そうだな、リサは寂しいのが嫌いなんだよね。だったら僕の隣で眠ればいい」
「私達はあまり眠らないよ」
「でも僕はすぐ傍に居る。一晩中話している訳にはいかないけど、ずっと手を触れていてあげるから」
「私には触れないよ…」
 リサの瞳は寂しそうだった。人とのふれあいにが恋しいのにそれが出来ない、その悔しさと虚しさが彼女の心の中にあった。
「君の手の近くに僕の手を添えればきっと触れられるよ。信じることが大事だと思う」
 勇作の目はこの哀れな少女に向かって出来る限りの暖かさを送っていた。
 その想いが通じたのか、リサは小さく、そしてゆっくりと頷いた。
 リサの身体を包んでいた光が赤い色から青く済んだ色に変わっていった。