Forget me not~勿忘草~

「…ホントに?」




もうヤケクソで適当に言った言葉に、◯◯さんが顔を上げる。




涙で烟(けぶ)ったような瞳がウルウルしてて…宝石みたいに光ってる。



お酒のせいか、頬は桃色に上気して…ホントの桃みたいだ。





ちょっと見惚れてしまいそうになったけど、



コホンッと咳払いをしてもう一回言う。





「はい!死ぬまでちゃぁんと生きてますから、大丈夫ですよ」






ニッコリ微笑んでみせると、◯◯さんの顔がパァッと笑顔に変わった…




「良かったぁ…」



そう言うと、また胸に頬を寄せてくる…





―すごい…花が一気に咲いたみたいな笑顔だった。





ドクンッと動悸が早まったのがわかった。







鋭い居合の一太刀を、間一髪でかわした時みたいに



自分の胸がドクン、ドクンッと高鳴っている。







僕が剣を交わらせていて、一番好きなこと。



それはこの感覚。




―生きてるって感覚。





それを僕に齎(もたら)したのがこの女の子。




僕の腕の中で、安心した猫みたいに丸くなってる女の子。





剣も持たず、ただ微笑んだだけで…








―いったい僕はどうしちゃったんだろう…



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―どうもいけねぇ…

屯所に戻る道すがら…




揚屋に残してきた総司と◯◯が気になっていた。




―まさか奥手の総司が振袖新造に手を出すとは思えねぇが。




大丈夫と判断したから出てきたのに、今更戻るのもバツが悪い。




(◯◯が絡むと俺の判断もアテにゃならねぇな…)




フッと苦い吐息が漏れた。






どうにも分が悪い。




小娘と思って侮ると、いつの間にか俺の心の隙にスルリと入り込んで…




無防備に、真っ直ぐに入ってくるのに、戸惑うのは俺の方だ。




オタオタと振り回されるなんざぁ、らしくねぇとわかっちゃいるが



事実、一回りも年若い◯◯が気になって仕方ない自分が居る。







―抱いちまえばいいんだ。




アイツのすべてを、この腕で抱いて蕩かして己のものにしてしまえばいい。



俺しか見えない、俺しか欲しがらない女に体ごと作り替えてしまえばいい。



他の男に気を揉むくらいなら、いっそ抱けばいい…







―なのに何故俺はそうしない…