「壬生、浪士組じゃ…ないの?」




あれ?もうこの遊びは終わりかな…?




お銚子を置いてしまった◯◯さんに合わせて、



僕もお銚子を置いて、居住まいを正す。




「はい、先だっての池田屋での功績が認められて新選組の名前を頂きました」



「土方さんは副長、私は一番組の隊長を仰せつかりました」




土方さん、まだ言ってなかったのか…



驚かす気だったなら悪いことしちゃったな。




「じゃあ…土方さんは新選組の土方さんで…」




「沖田さんは…新選組の沖田さん…」



自分の言葉を確かめるように、



呟いていた◯◯さんの口元がふいに引き歪む。



と、思ったら瞳に…涙?





「嘘…そんなの…う、うぅ…ウワァァァン」



な、泣いちゃった…あぁ、どうしよう




「ど、どうしたんです…泣かないで…」




おずおずと手を伸ばすと、◯◯さんが…



僕の胸に縋りついてきた…!




わわわ…っ!



ひ、土方さん…こういう時はどうしましょうね…










と、土方さんに訊きたいところだけど…



実際、訊いたら斬り合いになってしまうなぁ。




思わず、苦笑が漏れる。


取り敢えず、胸に縋(すが)られて行き場のない両腕で



◯◯さんの肩をそうっと包んでみる。




小さくって細い肩が、しゃくりあげるのと一緒に揺れている。




(ほっそい肩…)




僕も近藤さんなんかからは華奢だって言われるけど…



菊一文字は華奢じゃ振るえない。




でも◯◯さんの肩は風に揺れる小枝みたい。




「お願いします…どうか泣かないで…」



小さい子供を苛めているようで、どうにもやり切れない。




「…なないでぇ…っ、死んじゃヤダぁ…ヤダよ…っ」




ん?死なないでって言ってるのか




(まぁ…まだ死にたかないけどさぁ)



買った恨みなら山ほどあるし、恨むなと言うつもりもない。




随分、大勢斬っちゃったから長生きはできそうにないですねぇ…




「はいはい、死にませんよ~」



頼むから、泣きやんで欲しいなぁ…




(じゃないと胸が苦しくって今にも僕の息が止まっちゃいそうですよ…)





これだから、女の人は困っちゃいます…





―剣みたいにわかりやすくない。




強ければ生き、弱ければ死ぬ。






剣を持ってりゃ、相手の心を読んで動くけど…



どうにも女心は読めませんねぇ







「…死ぬまで生きてますから、安心して下さいよ」