「たぶん、偶然かかっちゃったんだと思う。

…ごめんなさい。」

「いや、いいんだよ。
間違い電話でも、偶然でも

……ユイの声を聴けて良かった。」


彼の声が身体中に響いて、息が苦しい。


「私も、こうちゃんの声が聴けて嬉しかったよ。」


声が震えているのを気づかれたくなくて私はできるだけ冷静に言った。


「…じゃあ、電話切るね。」


数秒間の沈黙の後、私の耳に届いたのは5年前と変わらない彼の声。



「うん。じゃあ、さよなら。」



電話が切れてしまった。



ディスプレイには、通話時間1分12秒の文字。

その文字が消えるのを私はただ呆然と見つめていた。