記憶 ―砂漠の花―


キースは呆然と、抵抗もせず逃げもせず、その場で捕らえられた。

カルラさんは、その後辛うじて一命をとりとめた。




牢の中で、一人。

まだ、この時のキースは、カルラさんが助かったと知るはずもない。

他人の命を奪うという、大きな後悔と罪悪感。

しかし、そんな感情の中で、キースは自分の母の心配をしていた。


自分が暗殺に失敗した――。

自分はサザエルの地に帰る事なく、ここで死刑になるだろう。
母は、どうなるのだ。


――逃げなくては!

逃げて再び、次期国王の命を奪わなくては!

母が殺されてしまう。


――しかしっ!

あの、人を刺す感覚…
思い出すだけで、手はガタガタと震えた。
もう味わいたくない恐怖。

どうしたらいいのだ…。



そんな葛藤の中、

牢の頭上から、鳥のさえずりが聞こえる。

それは見覚えのある、サザエルの友人の連絡用の鳥だった。


友人からの手紙の内容を受けて、キースは牢の中で一人、声をあげて笑った。


『――キース。母親はお前を想い、自ら命を絶った。もうこの国に縛られる理由は何もない。逃げろ、キース!――』