記憶 ―砂漠の花―



昼間ざわざわと賑わっていたシオンの街も、夜となれば波の音しかしない。

ザザァン、ザザァン…

そう絶え間なく響く音は、いくら聞いていても飽きなかった。


「海って…初めて見たけど…」

「夜の海は、昼間と見え方が違うんだな。」

私とアズは、城のバルコニーで初めての海を眺めていた。

潮風に吹かれ、月に照らされ。
眼下には寝静まった街並み。
その向こうには広い海。

そんな光景を、バルコニーの手すりに頬杖を付いたまま見ていた。


「キース、様子おかしいな…あれから。」

「うん…。」

キースは先に休むからと、すぐに寝室へ向かってしまった。


「もう俺たちは言ってくれるのを待ってるしかないな…。」

「そうだよね…」


ただの野生の狼ではない事は確かだった。

父上やマギー、それに叔父様をも知っている。


何より人の姿、形、生活に明らかに慣れていた。
今回が初めてであれば二足歩行すら簡単ではないはずだ。

昼間のシオンの街を歩く様は、明らかに私たちより堂々としていたのだから…。


以前から父上や叔父様の使いなど、私たちの知らないところで仕事を任されていたのではないか…。

そう私は勝手に目処をつけていた。