「ん・・・ねこ、顔赤い。可愛い」
「ッ・・・」
あ、あんなに深いキスは、初めてかもしれない。
「んー、もっとちゅーしたいけど・・・約束したからね、帰らせてあげるー」
意外と約束は守る男なのか。
「じゃあね、ねこ」
・・・あ、
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
すると男は、振り返り「ん?」と言った。
「わ、私の名前はねこじゃないです!」
「ねこは、ねこ。でしょ?」
そもそもな話、私はネコでもイヌでもない。人間だ。
「私の名前は、杜若 結衣ですッ、ねこじゃないですよ」
「ねこ、ゆいっていうの?ふーん」
何だその、自分興味ないです的なオーラは。
「やっぱり、ねこでいい?俺、人の名前覚えるの、苦手ー」
えぇぇぇー。お前はそれでも高校生か。
「あ、でも、ねこは俺の名前読んでね?」
じ、自己中か。こいつは。て、いうか、
「そもそも、貴方の名前知らないです」
「あぁ、そっか」
そう言って、手をぽんっと打つ。
こういう人を、マイペースと呼ぶんだっけ。
するといきなり、男はこちらに近づいて来た。
・・・え?
男は、私の耳元に口を寄せて
「俺の名前、しゅう、ね」
と、呟いた。
息が耳にあたってゾクゾクする。
男こと、『しゅう』は、妖しげな笑みを浮かべて
「じゃあね、ねこ」
と言った。
