桜井が開けた窓の隙間から

春のぬるい風と共にその長い髪をなびかせ

俺の鼻をくすぐった。



甘い香りが、もうあのころとは違う彼女を意味していた。



模様替えした後の部屋が

以前の姿を想像しにくくするように

桜井の横顔は

もうあのころが遠い昔のように・・・・



って

寝てるじゃねーか




あれから6年が経って、すっかり女子高生の

桜井だが、寝顔はまだまだ子供だ。




大きくふかすため息と同時に

けたたましく携帯電話が鳴る。俺のだ。

多分店からだが、今日は無視だ。

目の前に置かれた状況の方が、今ここでは「難」だ。




なあ桜井よ

なんで俺なんだ。

こんな来月30になるような、元担任の俺なんだ。







電話の音ですっかり目を覚ました桜井は

なんとも初々しい表情で俺を見た。




「先生、次のSAでごはん食べない?

 私、お腹すいちゃった。

 全部話すから、だからそんなに怖い顔しないで」




少しすねた声の桜井は

少しかわいかった




汗まみれの両手でしっかりハンドルをつかんで

慣れない高速道路を走らせ

余裕もまったく無い中 

ほとんど前方だけをにらんでいたからな。










SAに着いて

車を降りるとぐっと背伸びをした。

少し清々しい気持ちではあったね。







「先生

 手をつないでもいい?」




ただでさえ浮きまくりな俺たちは

これでますます目立つこと間違いなしだ。

平日ではあったが昼時のSAは若干混雑していた。




さっと奪われた左手の先には

セーラー服の袖が揺れていた。




「先生、私エビフライ定食でいいわ」










俺は、まったく味が分からなかったカレーを

そりゃあもうフードファイターのごとく飲み干したさ。

豪快にね!