魚屋の店頭に女子高生がうろつくなんざ

目に付くにきまっている。

そんな違和感が30分続いたところで俺は声をかけた




「おい

 そこで何してる?」



その制服に身を包んだ少女は

軽く会釈して

「先生」

と言った。



はて。

俺は小学校の教壇に立っていたはずだったが。



その前に

月 火 水

指を折ってみる。今日は水曜日で無論平日だ。

学校が休みであるわけがない。

「君、学校はどうした」



「先生

 私を覚えてないの? 私よ」

質問に答えようもしないその少女は若干上目遣いで俺を見た。




そういえばどこかで、見たような・・・・



って、あっ



俺が最初に担任をしたクラスの児童

桜井 さくらじゃないか?

当時10歳であれから6年で16歳か。

もうそんなに経つんだな・・・・・・・・・・




違う違うそうではない。



「何してるんだ桜井、こんなところで

 それよりお前学校どうした

 今日は平日だし    どうやってここまで来たんだ」

俺が勤務していた学区からこの俺の実家まで新幹線を使っても

1時間はかかる距離だ。



桜井はゆっくりとこう言った



「先生

 あの時、10年後、私をお嫁さんにしてくれるって言ったわよね

 あと4年間お付き合いをして関係を深めてからの方が

 いいと思ったの。だから今日、私の誕生日のこの日を選んで

 来たの。

 付き合ってくれるわよね、6年も待ったんだから」



またも質問に答えない彼女はそう言い放った。



10歳の子供に聞かれた事なんて覚えていたはずも無く

俺は、目の前に置かれた状況に文字通り頭が真っ白になっていた。



俺、来月30だぜ




しかも魚屋だぜ・・・