中庭に行くまで、私達は一言も話さなかった。
というか、私が何も言えなかった。
私の少し斜め後ろを歩く入江くんは、当たり前にいつもよりも近くて。
それだけで心臓がおかしくなるんじゃないかってくらいドキドキした。
「えと……急に、ごめんなさい」
声が震える。
「や、大丈夫」
入江くんも、なんとなく雰囲気でこれからのことに気づいてるのか…少し気まずそう。
早く伝えよう。
迷惑はかけたくないから。
私は一度大きく深呼吸をして、俯いてた顔を上げた。
「私、F組の相沢美沙子って言います」
入江くんは何も言わずに私の目を見てる。
どうしよう私……入江くんと話してる。
それだけのことなのに、泣きそうになる。
「あのね、すごく、突然なんだけど……」
なんだか、もう胸がいっぱいで次の言葉が出てこない。
“好きでした”
たった5文字だよ私!
それを言えば、終わるから……
前で組んでいた両手を、ギュッと強く握る。
せっかく入江くんは聞いてくれてるんだ、言わなきゃ一生後悔するに決まってる。
……聞いてください。

