「父さま、お話があります。」

その日、帰ってきた父さまをリビングに引き止めた。いつもはそのままリビングを抜け書斎に籠もるが、私の呼び掛けに足を止めた。
「どうした?」

「婚約の事なのですが…なかった事には出来ませんか?」

「……どうした?あんなにキラキラした目でもらった花束を眺めていたじゃないか。」

「それは…」

まだロリコンなんて思ってなかったから、なんて言ったらどうなるたろうか?花束をもらっておいて今更ながら自分が現金な気がした。

「なんだ、他に気になる人でも出来たのか?」

「いえっ、そう言う訳では…」

「じゃあなんだ」

“婚約者の人、ロリコンなんですか?”
なんて聞けない…

「………」

「………」

重い沈黙が続く。
いたたまれない。
話さなかったらよかったと思ったとき、父さまが口を開いた。

「千景ももう年頃だし、婚約者に会ってみようか」

「えっ…」

父さまからの提案に思考が止まった。

「しかし佐々木君は今、ロシア支社に行っている。帰って来るのは今のプロジェクトが終わってから…早くても3年。そうだ、千景が18歳になる誕生日にでも顔合わせしようか。」

「18歳…」

「佐々木君は忙しいから…千景には悪いけど、待ってくれるか?」

優しい口調、ちょっと困ったようで、下がる眉毛。
そんな風に言われたら…

「…わかりました」

「千景も本当に佐々木君の事が気になる年頃になったんだね」

ふんわりと笑みをこぼす父さまに、私はもう言葉が出てこなかった。
私はこの父さまの微笑みに弱いのだ。

「もう遅い、明日も学校なんだから早く休みなさい」
そう言うと父さまは私の頭を撫で、書斎に消えて行った。