そう言ったあたしから腕時計に視線を向けて……。


「あっ。
そろそろ、僕、行くね。
西洋美術専攻だし。
あっちの校舎だから」


古久保くんは、指さした方向に足を向け……いったん、あたしを振り返った。


「あ、そうそう。
僕のことは、“楓ちゃん”って呼んでね。
くれぐれも、“くん”は禁止だから」


きゅるんとした表情でかわいく言って、唇にひとさし指をあてる古久保くん。


「あ、それから……。
ここは、音楽棟でも、みんなめったに使わない入り口だから大丈夫だけど……。
あっちと向こうは、気をつけてね?」