楽しそうに笑う野々宮をマンションのエントランスに置いて、千鶴は自分の家に急いだ。
クローゼットを開けて自分の一番お気に入りの服を着る。
そして、後ろ前じゃないことを二、三回確認して家を飛び出した。
ここまでかかった時間、五分少々。
我ながらよくやったと思う。
「お待たせしました」
せいぜい冷静を装って野々宮の前に出て行くと野々宮はいつものようにイヤホンをしたまま顔を上げた。
「早かったね、後ろ前」
「じゃないです、確認してきました」
からかう声を遮って胸を張った。
「ん、すごいすごい。行こっか」
すごいすごい、なんて馬鹿にしちゃって、笑いすぎ。
抗議のつもりで軽く睨んでみたが笑顔でかわされた。
……手強い。

