「突然、ふいに人を殺したくなる時って亮にはあった?」

ゲームをしている亮に聞いていても聞いていなくてもいいような質問をしてみたら、意外にも返事が返ってきた。

「あるよ」

「それってさ、どんなとき?」

激しく亮の手がボタンを押す。

しばらくして返事が返ってきた。

「小さい時っていっても9歳とかの時だけど……自転車こいでたら、細い道があったんだよ。そんときに車とちょっちぶつかった。でも俺はそういうの放っておくタイプだったから、放っておいたらちょっと広い道に出たとき、俺の自転車のスピードに合わせて車が並行してきた。ウゼェ奴とか思いながら、何もなかったように装ってチェリこいでたら、さっさと走っていったけど、信号のとこでまた鉢合わせになって、また並行して走ってきた。さすがの俺もそんときはソイツ殺しそうになったね。まぁ、すっげぇ些細なことだけど」

意外にも身近な出来事でこれまたビックリした。

「そっか……」

「うん。俺は短気だからな。すぐに人を殺したくなるよ。フィーリアは?」

ゲームをしているのに話すこともできるし質問することもできる器用さに本当に関心する。

「僕はそんなにない。仕事以外で人を殺すのは、敵だけって決めてるから」

亮の目が少しすがめられた。

「へぇ。俺にはその気持ちは難しいかも。だって俺、何でも殺そうとするから」

「まぁ、人の考え方の違いとかあるよね」

「だな」

「じゃぁ、ゼルトはどうなるの?」

突然入ってきた声に、亮も一瞬だけ手を止めた。

その声の主は、亮の隣に座って僕と同じように亮のゲームを観戦していたヤクサだった。

「ゼルトはいつも人を殺してるよ?あれは、何で殺してるの?殺した人全員が、わたしたちの敵なの?」

まだ幼いヤクサには、Cがあの人たちを殺す理由をまったく知らないに決まってる。

でも、Cがあの人たちを殺す理由は山ほどある。

それをまだ幼いヤクサに言ってもいいのか否か。

亮も悩んだのか、ボタンを押すスピードが少し遅くなった。

「ゼルトがあの人たちを殺す理由は山ほどあるよ。c-wolfの敵の人だっている。でも……ゼルトが人を殺す一番の理由は、嫌なことを考えないようにしてるんじゃないのかな。ヤクサだってあるでしょ?嫌なことがあったらとにかく何か作業とか運動とかをしてそのことについて考えないようにすること。それと一緒だ。ゼルトは人を殺して考えないようにしてるんだよ」

ヤクサは手にしていたお手玉をイジった。

「ゼルトは、人を殺すことに快感を覚えているのかな?」

亮が少しだけ眉をひそめた。

「さあね……。少なくとも、俺よりはマシなんじゃない?それでもゼルトのほうが人を殺す量は多い」

ヤクサはよく分からなかったのか、小さく首を傾げた。

それをみた亮が小さく笑ってゲームの電源を切った。

「まぁ、ヤクサはまだ”殺し ”をしないから分からなくてもいいよ」

そう言って、亮はヤクサをくすぐり始めた。

ヤクサは亮にくすぐられてキャッキャと笑った。

そんな二人をみて、僕は小さく笑った。