「……お前ら、どけ」

ゼルトが地を這う低い声で言ってもそいつらは退くことをしなかった。

「……いいか、もう一度だけ言う。どけ」

しかしそれらは僕たちに銃口や剣先を向けてきた。

僕たちはそれを否定の意味にとらえ、互いに人間の海に飛び込んだ。

「ゼルト!こいつら、何だ!?」

「さあな。まだ情報不足だ」

抜刀した刀で周囲にいたにんげんを切り捨てながらちらりと視線を横に向けると、襲い来る黒い陰を自身の刃でねじ伏せるゼルトの太刀は暗闇の中でも美しく煌めいていた。

その周囲には山ほどの屍が積まれている。

「……臭い」

ゼルトが呟いた。

臭い……?

確かに人を殺したら血なまぐさいに決まっている。

「臭いって……何が?」

「コイツら……くせぇぞ」

本気で嫌そうな顔をしたゼルトに訳も分からず僕は困惑するだけだった。

「どういうこと?」

「ん~?なぁんかさぁ、臭いんだよねぇ。死んだ臭い。生きててもする死んだ臭いがコイツらからしてさぁ」

ニヒッと僕に笑いかけながらゼルトは敵を倒していく。

その顔は楽しそうでもあった。

「それにさぁ、いきなり僕たちを襲ってくるってのもおかしいよねぇ。だってさぁ、普通の人間なら……俺が危ないって分かるだろ?」

鋭い目に楽しそうな口元。

狼のような、ゼルトがいた。

だけど、ゼルトが言うことは正しかった。

「だけどさ!生きてても死んでるってことは……誰かに操られてるってこと?」

ゼルトは鼻で笑った。

「そうとしか考えらんねぇだろ。だぁれがこんな面倒なことしてんのかねぇ」

人間を操る人間……。

それはもう人間ではなく、異物だ。