「……へぇ、威濡を馬鹿にしたのか」


威濡はレインの言葉に首を振った。


「いや、馬鹿にされたんじゃないんだ。けど……」


「けど?」


「俺が、ビビった」


殺されるかと思った、アイツに怯えた。


「俺よりも……、年齢は低いはずだ……。そんな奴に俺がビビった……」


レインの目がゆっくりと眇められた。


その時、琥露が官長室に入ってきた。


「失礼します」


「どうぞ」


琥露はレインの前にたつと、紙を見せた。


レインはその紙を一通りみた後、首を傾げた。


「この世界に、ゼルト・C・ヴォレフなんて人もいないし、威濡がみたっていう人の顔もいない。これは……、どういうことだ?」


威濡はレインの言葉を聞いて、レインから紙を奪うと、この世界中の顔をみていった。


その中には、もちろん自分の顔も、レインの顔もある。


しかし、何度みても、彼の顔はなかった。


その名前さえも。


「ない…………」


「不可思議だね。君たちが見たのは……、死人かもしれないよ」


レインは笑って言ったが、威濡はそれを本気にしかけた。


もしかしたら、アレは幽霊だったのかもしれない。


「俺たちの前から消える時…………陽炎のように消えた」


レインは、軽く微笑んだ。