「まず、コイツを殺した後に、コイツの血を使って三本の指で文字を書く。だけど、殺した奴がミスったのはここにある」


威濡と琥露は顔を見合わせ、首を傾げた。


「c-wolfの文字の書き方は特徴的だ。まず、一番はじめにc-wolfの文字を見せつけ、人々を恐怖に陥れ、そして武器にかけられた血塗れの腸をみて声にならない叫びをあげる。そして下をみた瞬間…………」


青年のフードの中に隠れた口角がニヤリとあがった。


けれど、そんなこと、背を向けられていた威濡と琥露には、分かるはずもなかった。


「人間の跡形もない姿に吐き気を感じ、悲鳴をあげ、人々はc-wolfに戦慄を覚える」


そんな書き方をするはずだ、と、青年がこちらを振り返った。


しかし、その顔もまた、表情を読みとることができなかった。


だが、威濡はそれよりもこの青年の”読み ”に驚いていた。


「言われてみれば……」


いつもそうだった。


c-wolfの特徴的な書き方として、毎回現場に行って一番に目に入るものは、c-wolfの文字だった。


そして……、腸を見て、人ではない人をみる。


けれど、今回は腸の場所も、人の上ではなかった。


人の隣に刺さった棍棒にかかってあったし、c-wolfの文字の場所もその人の真上ではなかった。


「つまり、これはc-wolfがやったと見せかけた立派な犯罪。だから、さっさとc-wolfがやったなんて馬鹿な発想はそのお花畑の頭の中から消し去ることだ」


ムッと威濡は顔をしかめてつっかかろうとしたが、琥露がそれをまた引き留めた。


「威濡。やめておくのだ。今回は……、あちらの方が正しい。確かに我らは読みを間違えていたらしい。これは、c-wolfがやったものではない」


威濡は小さく舌打ちをすると、青年を呼び止めた。


「おい!!あんた!!!」


青年は足を止めると、ゆっくりと振り返った。


後ろ姿は本当に細くて、ブカブカの黒色のジャンパーが振り返った青年の体の輪郭をうっすらと表す。


筋肉があるのかどうかもわからない体に、長ズボンも履いているものの、その大半は風に小さく揺れ動かされていた。


それでもフードは青年の顔を見せようとはしなかった。