アンジュエールの道標


そんなの絶対嘘。

仮に今日から出張だったとしても朝は居るはずだもの。

朝早くから出張、というのもあるかもしれないけど、昨夜の言い争いを考えたらあり得ない。

私は部屋を見渡した。

クッションはソファの上に、時計は棚の上。

すべてが同じ場所にあるけれど、


「……ねぇ、ママ」

「なに?」

「ガラスの花瓶は?」


ガラスで出来た花瓶だけがテレビ台の上からなくなってた。


「……割れたから捨てたのよ」

「なんで?」

「手に当たって落ちたのよ。ママ、もう出かけるから」

「……」


花瓶が置かれてたすぐ近く、

そのカーペットにはどす黒いシミが――。