アンジュエールの道標


一志が差し伸べた手は理枝の頬を突き抜ける。

そんな事実に彼はハッとし、理枝は小さく微笑んだ。


「――カズ」


喉の奥からやっと出た声に、理枝は安堵の息をついた。

どうしても伝えたかった言葉。

きっと気にしてるから。

自分のせいだと思っているから。


「気にしないで」


だから毎日それを伝えようと待っていたのだけど。

でも伝えると『縁』が切れてしまいそうで……。