「声、掛けなくてよかったの?」


その声に彼女は小さく首を振った。


「……いいの」


その声は川の流れる音にすらかき消されるようなか細いもの。


「どうして?」


そう尋ねられて、彼女はやっと視線を彼に向けた。

色素の薄い髪は夕日に染まってオレンジ色に、その瞳は黒曜石のように黒いのに。

その顔立ちから年齢は20才前後だろうか?

けれど落ち着いた雰囲気は彼を大人びてみせる。


「どうして?」


もう一度そう聞かれて彼女はハッとするように彼に焦点を合わせた。