檸檬の変革

沈黙を破ったのは文也だった。

とても静かに優しい口調で言った。
『俺は千穂子に淋しい思いをさせてると思う?』

私は文也の目を真っ直ぐ見て答えた。
『私はそうは思わない。文也は何時も千穂子の事を考えてる。誰も2人の間に入る隙なんて無い。千穂子は無い物ねだりだよ……。』


文也はハンドルに両手をのせてその上にアゴを置いて呟いた。
『1人だけ居る。』

私は助手席側の窓に顔を向けてガラス越しに文也を見ていた。

文也は続けた。
『俺と同じ名前のヤツだけは特別な存在なんだ。千穂子とは違う意味で大切な存在なんだ。』


私はゆっくり文也の方に顔を向けた。

文也は小さく笑い、そして私の髪に手を伸ばした。
『何て言っていいか自分でも分からない。好きとか、愛とかそんな言葉じゃ表せられないんだよ。』

髪を触りながら考えていた。
そして一言言った。

『愛おしい。俺は同じ名前のお前が愛おしい。』