床に散らばる無数の槍。
靡く赤い長髪。
驚くほど目を疑った。
後ろで国王が舌打ちをし、兵隊は何事もなかったかのように消え去った。
無論、カナリア嬢や国王も。
王宮に取り残された俺らは沈黙が続いた。
とても口を開ける状態ではなかったことは確かだ。
「ご無事ですか?お二人方。」
「あ、あぁ‥。」
先に開いたのは赤い長髪の男性だった。
真っ黒なコートに身を包んで、両手には黒い手袋をしていた。
俺は慌てて返事をしたが、左腕にかすり傷があることが分かった。
エルビスは何もなかったようだ。
男性は無表情のままで俺に近寄っては、顔を触れてきた。
ぞっくとする背を抑えながら目を点にする。
「貴方を捜していた。」
「?」
「あ‥失礼しました。私はカイトと申します。」
にこりと眩しい笑顔を零し、男性はカイトと名乗って、俺から離れた。
俺を捜していた?
カイトとは今、初めて会ったのに?
訳の分からなさに混乱させられる。
すると、エルビスが俺に頑張れと言ってきて、後ろに立っていた。
頑張れって言われても‥。
兎に角、白梅を鞘に収めた。