「そんなぴらぴら薄い服着やがって。いい年頃の女が足なんか出すんじゃねぇよ。」
「…そのいい年頃の女の家に忍び込んで、よくもまぁ悪びれずに言えたもんね。」
「ちっ、これだから田舎女は。」


吐き捨てるように呟いて、男は立ち上がった。
あわてて私も立ち上がる。


「ちょっと、逃げる気!?」
「うるせぇな、帰るんだよ。大体、何も盗ってねぇ。見りゃわかるだろう。」
「家に忍びこんだ時点で、現行犯なのよ。こういう世界はね!」


追いすがる私にかまわずに、男はどすどすと廊下を歩く。
めんどくさそうに私を振り向くと告げた。


「ゲンコウハンだかなんだか知らんが、もしも何かなくなってたら、来い。」
「来いって、どこに?」
「石田村だよ。石田村のバラガキ、トシっていやぁ、たいていわかる。」
「は?そんな適当な…。本名くらい名乗ったらどうなの?」


思わず呆れてつぶやくと、男、改めトシは玄関で立ち止まった。


「本当にうるせぇ女だな。土方だ。土方歳三。」
「それ、…本名なの?」
「なんだよ、文句あんのか?」


大河ドラマやら映画やらで耳に覚えがありすぎる名前は胡散臭すぎる。
もしも本名だとしたら、この人の親はそうとうな歴史マニアなのだろうか。
なんというネーミングセンスだろう。

呆れて立ち尽くしていると、威勢よく飛び出そうとしたトシ改め仮名土方歳三が、憮然と振り返った。


「おい、こりゃどう開けたらでれんだよ?」