僕は走った。
 この時間、駅の付近では、塾帰りの学生やら、帰宅途中のサラリーマンやらで人がごったがえしていた。僕はそんな人たちを押しのけながら、ただひたすら無我夢中に走り続けた。
 しばらくすると目の前に大きな建物が見えてきた。
「東京病院」
 弟の容態が急変した。そう電話がかかってきたのはちょうど一時間くらい前のことだったろうか。僕には信じられないことだった。だってもうすっかり良くなり、一週間後くらいには退院できるはずだったのだから。ちょうど母さんと退院祝いのパーティの打ち合わせをしていた矢先だったのだ。
 僕は病院の入り口を抜けると、急いで階段で二階に上がり、「205号室」と書かれた部屋へ飛び込んだ。
「次郎っ。」
そこにはベットに横になり静かに寝ている次郎と、それを心配そうに見守っている父さんの姿があった。
「と、父さん。次郎は・・、次郎は大丈夫なのっ?」
「・・・ああ。今は少し良くなって静かにねむっている。でも医者によればかなり危険な状態らしいんだ・・。ヘタしたら今週くらいが山場だって・・・。」
父さんは涙目になりながら、やっとの思いでそう答えた。
「そ、そんな・・。」
「全部・・、全部お前が悪いんだからなっ。お前が次郎を殺そうとしたんだっ。」
父さんはそう叫びながら僕の胸ぐらに強くつかみかかった。
僕は何も言い返せなかった。そうだ・・、全て僕が悪いんだ・・・、何もかも全部・・。