空より青い

僕は死ぬまでに、一体何を得て何を失うのだろう。少なくとも、僕は死ぬまでに彼女が得た。そして命を失った。もしまだ命が手元にあるのなら、きっと神様の気まぐれか何かだろう。

「目が覚めた?」


神様って本当に気まぐれなんだなぁ。僕の隣に遠野江さんが座っている。そういう僕は、病院のベッドのようなモノに寝かされている。


「ああ、ごめん。今起きるから、このベッド使って良いよ。」


「はぁ?勘弁してよ。貴方の体温が残っているベッドでなんか寝たくないわ。」


そう言って彼女は僕が起き上がるのを制した。彼女なりの優しさが僕の体を切り刻んだ。最近の恋のキューピットは弓矢じゃなくてナイフを持っているんだなと知った。


「両腕骨折、身体中に打撲と裂傷。よく生きているわね。」


「君が付き合ってくれるって言ったから、僕はこうして生きてられるんだと思う。」


「そう、良かったわね。」


そう言って彼女は、ベッドの横に置いてあったリンゴを僕に差し出してくれた。


「これ・・・ウサギ?」


「当たり前じゃない。貴方の目は飾りなの?」


ウサギ型のリンゴは、皮を剥いた所も真っ赤に染まっていた。ほのかに鉄の匂いもするのは彼女の愛情という名のスパイスの香りだろう。


「食べなさいよ。せっかく私が剥いてあげたんだから。」


「ん、ありがとう。」


パクリ・・モシャモシャ・・ゴクン。


「どう?美味しいでしょう?」


「うん、君の味がして美味しい。あれ、手・・・どうしたの?」

彼女の手は、絆創膏だらけで見ていてとても痛そうだ。


「これ?貴方の為にリンゴを切った時に怪我しただけ。家庭科って苦手なのよ。」


そう言って彼女はニコッと笑った。他の人から見たらニヤリとかニタァという擬音で表現される笑顔だけど、彼女が笑ってくれるだけで僕は満足だ。

「うん、ありがとう。」


僕の為にリンゴを切ってくれるなんて、なんて彼女は優しいんだろう。クラスメイト達の噂は嘘っぱちという事が証明された。