太陽の竜と闇の青年

[壱]


「お願いです。行かないでくださいませ」


そうせがまれた俺は一瞬怯んでしまった。


信濃が両手で俺の袖を引っ張った。


俺は元いた椅子にもう一度座ってしまった。


「信濃。離せ」


俺が椅子に座っても袖から両手を離さない信濃に俺は言った。


けれど信濃は離さなかった。


「信濃。どうしたんだ?」


隣の部屋からウギャー!という牙城の声がした。


おそらく肩を縫っていたが、あまりに痛くなり、とうとう声をあげた、というところだろう。


信濃を治療していた女人が慌てて隣の部屋へとかけていった。


「壱。あたしとあなたで桜の並木を歩いたことを覚えていますか?」


そうだ。


三年ほど前、許嫁というのが決まったとき共に歩いた。


そのときはルウの存在なんて知らずに。


暗殺者としての仕事で手を汚しながら。


「あたしにとっては初めての男性との散歩でした」


「俺もだ」


「とても楽しかったのです」


確か散歩では桜並木を歩いた後、団子屋に寄って団子を食べた。


「そうか」


「壱がどう思っていても、あたしにとってはとても楽しかったんです。それからというものあなたを忘れたことはありません。夢にまで出てきたくらいです。本当に好きなんです。いえ、愛しているんです。壱はあたしのこと嫌いなんですか?」