[壱]
ルウの走り去った姿を呆然とみていた俺は、ハッとして立ち上がろうとしたが足が動かなかった。
なぜ?
そんな疑問の答えはすぐにわかった。
ルウが一瞬でも怖いと感じたからか?
いや違う。
ルウを怖いと感じた時は他にもあった。
「もう、疲れた……。疲れたよ。壱。ここも同じ。竜の民を恐れ、不気味に思っている。そんな目で私を見ている。もう嫌だ……。ここなら大丈夫だって思ってたのに。壱だけじゃだめなんだよ……。壱だけがまともに見てくれていても、きっとダメなんだ……。もう嫌だ。……帰る」
大きな目がスッと細くなり、まつげが影を落とし、考え込むような表情を作った。
しかし、次に俺を見下ろした眼差しは鋭く、一瞬俺が身を硬くしたほどの荒々しさがあった。
ルウは俺の真摯な言葉には真摯に耳を傾ける。
そんな人だと思っていた。
……飛びかかってくると思った。
俺はバクバクなる心臓を押さえつけるように深呼吸した。
ルウを粗暴な少女だとは思わない。
自己を制御する力を充分すぎるほど持っている。
そう思ってきた。
けれど、さっきルウが見せた荒々しい感情は一体なんだったんだろうか。
大声で叫んだわけではない。
物を叩き壊したわけでもない。
その目に俺がたじろぐだけの鋭い光を宿しただけだ。
俺は汗ばんだ手を自分の服で拭った。
ルウが獣に近い目つきをするなど思ってもしなかった。
しかも、ただ優しく声をかけていた、懸命に話しかけていた俺に対してだ。
ルウは苛ついている。
自分の感情を持て余し、どうしていいのかわかっていないのだろうか。
「壱……」
俺が考えを巡らせていると、ルウとは違った女の声がした。
俺の肩に白い手がのった。
ルウの走り去った姿を呆然とみていた俺は、ハッとして立ち上がろうとしたが足が動かなかった。
なぜ?
そんな疑問の答えはすぐにわかった。
ルウが一瞬でも怖いと感じたからか?
いや違う。
ルウを怖いと感じた時は他にもあった。
「もう、疲れた……。疲れたよ。壱。ここも同じ。竜の民を恐れ、不気味に思っている。そんな目で私を見ている。もう嫌だ……。ここなら大丈夫だって思ってたのに。壱だけじゃだめなんだよ……。壱だけがまともに見てくれていても、きっとダメなんだ……。もう嫌だ。……帰る」
大きな目がスッと細くなり、まつげが影を落とし、考え込むような表情を作った。
しかし、次に俺を見下ろした眼差しは鋭く、一瞬俺が身を硬くしたほどの荒々しさがあった。
ルウは俺の真摯な言葉には真摯に耳を傾ける。
そんな人だと思っていた。
……飛びかかってくると思った。
俺はバクバクなる心臓を押さえつけるように深呼吸した。
ルウを粗暴な少女だとは思わない。
自己を制御する力を充分すぎるほど持っている。
そう思ってきた。
けれど、さっきルウが見せた荒々しい感情は一体なんだったんだろうか。
大声で叫んだわけではない。
物を叩き壊したわけでもない。
その目に俺がたじろぐだけの鋭い光を宿しただけだ。
俺は汗ばんだ手を自分の服で拭った。
ルウが獣に近い目つきをするなど思ってもしなかった。
しかも、ただ優しく声をかけていた、懸命に話しかけていた俺に対してだ。
ルウは苛ついている。
自分の感情を持て余し、どうしていいのかわかっていないのだろうか。
「壱……」
俺が考えを巡らせていると、ルウとは違った女の声がした。
俺の肩に白い手がのった。

