清らかな笛音が聞こえる。


岩は大きすぎて俺たちにはルウの顔が見えない。


だけど、笛の音でわかる。


ルウがどんな表情で吹いているのかも、どんな気持ちなもかも。


「やっぱり姫様は上手ですよね」


「えぇ。タラバンを姫様が吹くと、わたしの心は宇宙にも上ってしまいますよ」


「ルウ、自分では下手だって思っているんだよねー。これのどこが下手なんだろー?」


俺とジンは顔を見合わせて笑った。


「何だかんだ言って、お前らってルウのこと大好きだよな」


すると、三人はニヤッと笑って言った。


「「それはお互い様ですよ?」」


俺は顔をひきつらせた。


……もしかして、コイツら……。


「あれぇ?知らないと思ってましたー?僕たちの情報網をバカにしないでくださいよぉ!ま、ルウはまだ婚約は無理らしいけどー?」


「えぇ。そうですよ。リク様。わたしなんか、リク様と初めて会ったときから王子だってことぐらい知ってました」


「わたくしは、先ほどサクラさんに教えてもらいました」


三人とも悪魔だな……。


俺がそんなことを思った瞬間、今まで砂埃などたっていなかったオアシスに突然大きな砂嵐が起きた。


まるで俺たちとルウを引き離すかのように岩を砂嵐が覆い隠す。


「おい!!ルウ!!」


俺が岩に近づこうとした瞬間、フウが強い力で止めた。


フウの細い腕にそんな強い力があったことに驚きつつ、俺はフウから逃れようとした。


「リクさん!!落ち着け!!これは、ルウが決めたことだ!それに、ルウは絶対に死なない。こんなもので死ぬはずがない!ルウは、運も強いんだ!だから、ルウを信じてやれよ!!」


フウの目は真剣だった。


滅多に見せない真顔になっている。


フウも本当は心配で心配でたまらないんだ。


だが、ルウは助けてもらうことを嫌っている。


自分の力でどうにかしたいと思っている。


だから、サクラさんもラカもフウも手出しが出来ない。


「分かった。ルウを信じよう」


俺はその場にドカッと座り込んだ。


砂嵐はヒドイが、ルウが一番心配だ。


それでも今の俺たちに出来ることは、ただ祈るだけだ。


フウもラカもサクラさんもその場に座った。


ただ、ジンは立って馬の手綱を持っている。


それから、少し経ったときだったと思う。


突然、明るい光が差し込んだ。


「朱雀!!!!!!!」


ルウの声が響いた。


声だけで安心した。


砂嵐がどんどん消えて行く。


いつの間にか、目の前にあった大きな岩がなくなって、ルウともう一人、女性が宙に浮いていた。