[壱]
心地よい風が吹くこの草原は、世界の末端、最も天に近いと言われている場所だ。
俺たちは今―――
竜の民が死んだ場所にいる。
正確に言うと、竜の民の墓、というべきだろうか。
そこにはもちろん。
「……美しく、永遠の乙女ドラゴン・ウイ」
竜の民の文字は読めないため、かわりに朱雀が読んでくれた。
なぜか朱雀だけが俺たちについてきたのだ。
「そいつぁルウとフウの母親だよ。ルウとフウを産んだ数分後に死んじまった……。いい人だったよ。ルウに似て、明るい人だった」
俺はそっとドラゴン・ウイと書かれた文字をなぞった。
ひんやりとしていた。
「……フウ君とルーちゃんの本当の名前はドラゴンと言うんですね」
マランは小さくうなずいた。
「あぁ。ドラゴンの名を持つ者は皆、竜の民の神だから」
俺は隣の墓石に目を移した。
名前が赤い色で塗られている。
それでも苔で少し緑色になってきていた。
「……永遠の英雄ドラゴン・ヒドラ、ですね」
朱雀の目がとても懐かしそうに細められた。
「……ヒドラ?」
俺が首を傾げると、隣にマランが座った。
少しタバコの臭いがした。
「こいつぁルウとフウの父親だよ。ただし罪人だ。もっとも罪の重いことをした罪人だ」
今度はテルが首を傾げた。
「ヒドラさんってどんな人なんですか?そんな悪いことをする人なんですか?」
マランが墓石を撫でた。
「こいつぁ人を思いすぎた。人を愛しすぎた。ヒドラは王者だったんだよ。人間と竜の民の中間を持つ珍しい奴でさ。そういう奴は大抵どちらかに分かれるんだ。竜の民として生きるか、人間として生きるか。……ヒドラは竜の民として生きることを選んだ。その道に進んだ。ヒドラとウイは悲しい運命を辿る二人だった。ヒドラは毎日俺に言っていた。ウイを護るためならば、俺は何にだってなってやるってな。中間なんて中途半端な奴はどちらからも愛されないんだよ。けど、ウイだけはアイツを愛した。そして二人はウイの体に宿った。だけどヒドラはもうすでにこの時、罪人だったんだよ。ヒドラは「暗黒」が下す未来を見据えてウイと一つの約束を交わした。必ず二人にルウとフウと名をつけることを。後にヒドラは人間に捕らえられた。たとえ世界のすべてがあの双子を否定しようとも、あの二人の生に決して罪はないんだ。だけど、神はあの二人の生に罪を追わせた」
ルウの悲しそうに歪められた顔が頭に浮かんだ。
父親も母親も自分の記憶にない。
そんなこと考えただけでも恐ろしい。
二人はもしかしたら、自分たちのせいで親が死んでしまったのだと思っているのかもしれない。
心地よい風が吹くこの草原は、世界の末端、最も天に近いと言われている場所だ。
俺たちは今―――
竜の民が死んだ場所にいる。
正確に言うと、竜の民の墓、というべきだろうか。
そこにはもちろん。
「……美しく、永遠の乙女ドラゴン・ウイ」
竜の民の文字は読めないため、かわりに朱雀が読んでくれた。
なぜか朱雀だけが俺たちについてきたのだ。
「そいつぁルウとフウの母親だよ。ルウとフウを産んだ数分後に死んじまった……。いい人だったよ。ルウに似て、明るい人だった」
俺はそっとドラゴン・ウイと書かれた文字をなぞった。
ひんやりとしていた。
「……フウ君とルーちゃんの本当の名前はドラゴンと言うんですね」
マランは小さくうなずいた。
「あぁ。ドラゴンの名を持つ者は皆、竜の民の神だから」
俺は隣の墓石に目を移した。
名前が赤い色で塗られている。
それでも苔で少し緑色になってきていた。
「……永遠の英雄ドラゴン・ヒドラ、ですね」
朱雀の目がとても懐かしそうに細められた。
「……ヒドラ?」
俺が首を傾げると、隣にマランが座った。
少しタバコの臭いがした。
「こいつぁルウとフウの父親だよ。ただし罪人だ。もっとも罪の重いことをした罪人だ」
今度はテルが首を傾げた。
「ヒドラさんってどんな人なんですか?そんな悪いことをする人なんですか?」
マランが墓石を撫でた。
「こいつぁ人を思いすぎた。人を愛しすぎた。ヒドラは王者だったんだよ。人間と竜の民の中間を持つ珍しい奴でさ。そういう奴は大抵どちらかに分かれるんだ。竜の民として生きるか、人間として生きるか。……ヒドラは竜の民として生きることを選んだ。その道に進んだ。ヒドラとウイは悲しい運命を辿る二人だった。ヒドラは毎日俺に言っていた。ウイを護るためならば、俺は何にだってなってやるってな。中間なんて中途半端な奴はどちらからも愛されないんだよ。けど、ウイだけはアイツを愛した。そして二人はウイの体に宿った。だけどヒドラはもうすでにこの時、罪人だったんだよ。ヒドラは「暗黒」が下す未来を見据えてウイと一つの約束を交わした。必ず二人にルウとフウと名をつけることを。後にヒドラは人間に捕らえられた。たとえ世界のすべてがあの双子を否定しようとも、あの二人の生に決して罪はないんだ。だけど、神はあの二人の生に罪を追わせた」
ルウの悲しそうに歪められた顔が頭に浮かんだ。
父親も母親も自分の記憶にない。
そんなこと考えただけでも恐ろしい。
二人はもしかしたら、自分たちのせいで親が死んでしまったのだと思っているのかもしれない。

