それからルウは無言で泣いていた。
声を押し殺すように。
何でこんなに強がるんだろうか……。
俺が一度、堂々と泣いてもいいって言っても首を横に振った。
泣きつかれたのか、今は吐息をつきながら寝ている。
頬には泣いた跡がついていた。
俺は塀からそっと飛び降りて、ルウをだき抱えた。
本当に軽い。
王宮の人間ならもっと食べたほうがいいと思うんだが。
それに、傷の背中は尋常じゃないぐらい痛そうだった。
まだ赤く腫れ上がっていた。
何個もの鞭で打たれたような跡があった。
自分にもその傷がついているかのように、俺の背中も痛かった。
だからフウも奴隷制度の話をしたとき、顔をゆがませたのか……。
そのとき、もぞもぞとルウが動いた。
「お、起きたか?」
俺が顔をのぞき込むと、ルウの目があいた。
「……おはよう?」
何で疑問系なんだよ。
俺は、笑いながら言った。
「こんばんわだな」
ルウは下ろして!というかと思ったが、その逆で、動かずに俺の腕の中で周りの景色を見ていた。
「この国は、西洋っぽいね」
俺は、笑いながら言った。
「これは父上の趣味だ。俺はもっと和風っぽいのが好きなんだがな」
すると、ルウも笑っていった。
「風国は和風っぽいよ。でも、和国が一番和に近いらしいんだって」
俺は、小さくうなずいた。
「今度、和国に行ってみるか?」
ルウは笑顔でうなずいた。
「ねぇ、この辺に、音も聞こえない大地ってある?」
と、突然聞いてきた。
俺は少しだけ考え込んだあと、ポツリとつぶやくようにいった。
「この国の端の端にガイヤ砂漠というのがある」
すると、ルウが笑っていった。
「そこ、明日行きたい」
俺は、苦笑いした。
ルウって好奇心が高けぇんだよな。
「わかった。でも、なにするんだ?」
意地悪そうにルウが笑った。
「音のない大地に、恋の歌が響いたら、どうなると思う?」

