「視てもいいことなかったでしょ?」


私が微笑していうと、壱が私を見据えた。


どこか私の心を見通せているかのように。


「いや。ルウの知らないことをたくさん知れた。人の心の痛さも、人の憎しんでいる心の黒さも、人が死ぬことの辛さも、助けてくれる誰かがいることのありがたさも。ルウとフウの過去で知れた」


私は眉をひそめた。


過去をみるだけでそんなにも知れるものなのだろうか?


まるで、人の心も聞いているかのように壱は言っている。


「あの……壱。それって人の心も聞こえるの?」


おずおずと聞いた私に壱は即答した。


「あぁ。すべてな」


私はペチッと額を叩いた。


「あっちゃぁー。私、何か変なこと言ってなかった?」


壱が首を振ったのをみて、私は苦笑いを浮かべた。


「ドロッドロだったよね」


その質問にはどう答えていいのかわからなかったのか、壱は少し迷ったような顔をみせた。


分かっている。


ずっと忘れることなんてない。


自分が昔、どんな考えを持っていたかなんて。


ドロドロだったに決まっている。


ドロドロでなければ、ここまでこれていない。


ドロドロでなければ、こんな笑顔創れていない。


そんな私の心を知ったのならば、壱が人の憎しんでいる心の黒さを知ったのは当然だろう。


私はゴローンと階段だけど寝っ転がった。


「ま、視ちゃったものは仕方ないしね。これからも視たいっていうんなら視てもいいけど……。後悔するものもあるかもしれないよ。うん、きっとある。それでもいいのなら私は止めたりしない。だって壱は私の夫だもん。夫はきちんと妻のことを知っていないといけないでしょ?」


ニコッと笑って壱をみると、壱も小さく笑ってくれた。


そして立ち上がると白虎に一声かけた。


「あと少しだな」


白虎はクルンッと回転して動物へと変わると、私を背中に乗せた。


「あぁ。風の匂いがしてきた」


私もクンッと鼻をならしてみたけど、風の匂いなんてしなかった。


さすが白虎。


壱は一滴ぐらい出た汗を自分の服で拭くと、腰の骨をバキボキとならした。


「さて、と」


そして、ニヤッと笑うと、走り始めた。


その後を白虎も続く。


速い、速い、速いってばーーー!!!


私は叫びたくなる心を我慢しまくって白虎に掴んでいた。