太陽の竜と闇の青年

「どこに行ったんだ?」


俺がそう聞くと、フィンドはフッとため息をついた。


「自分がでてきたところだ。結界の張られていない地獄門との裂け目をつかって帰っていくんだ。こっちにでてくるのもその裂け目からだ」


つまり、出入りのできる裂け目があるということか。


「さて、鬼はさっさと戻るかな。でなければ、コイツに怒られるからな」


そう言うと、ルウの手はふつうの手に戻り、目にも赤色がなくなり、手からは鎌もなくなっていた。


「ん?あれ?あらら?」


ルウが首を傾げて自分の状況を確認した。


「もしかして、またやっちゃった?」


俺をみたルウは少し困った顔をしていた。


俺がうなずくと、ルウは肩を竦めた。


「まったく、勝手に体使われるから困っちゃうよね。うんうん」


自問自答しているルウをみていると、ドルダムがふぅー、とため息をついた。


「地獄門の鬼が人に懐くなんて……」


そこで言葉を止めてルウを凝視した。


ルウも何事かとドルダムをみる。


「まさか、あんた竜の民か……」


ルウが小さく笑ってうなずくと、ドルダムは有り得ない、とつぶやいた。


「伝説の民が……なぜ、ここに……?滅びたのではなかったのか……」


ルウはターバンをするするとほどいた。


「私は[刻破り]を使ってこの時代に逃げてきたんだ。フウと一緒にね。竜の民から言われた。私が[刻破り]を使える理由。竜の民でもあり[刻破り]を使える者は逃げたその時代の流れを変えること。それが神から与えられた役目。私たち竜の民は死を覚悟して戦に臨んでいる。私たちの存在理由は腐ったこの世界を変えるため。竜の民として生きてきた限り、世界を変える力はあるはず。世界を変えるための手段は……。王族と戦を起こすことじゃない。王族の心を変えるんだ」


それを聞いたドルダムは小さくため息をついた。


「まったく、これだから竜の民は嫌いなんだよ。きれいごとばっか言ってさ。王族を変えるだって?そんな難しいこと、あんたみたいな小さい奴にできるわけないじゃんか。確かにこの国は他の国よりもいいかもしれない。だけど、他に国はたくさんあるんだ。あんたが行っていない国はこの世に山ほどあるんだ。そんな国をどうやって変えるっていうのさ」


ルウはターバンを巻きながら目をすがめた。


「わからない。だけど、自分の心がそう言っているんだ。心で決めたことは絶対にやる。それが私だから」


ドルダムはフッと短く息を吐き出した。


「はいはい。参ったよ。本当に竜の民っていうのは気むずかしいよ」


ルウは微笑を浮かべてドルダムをみた。