太陽の竜と闇の青年

壱はというと、小さくため息をついていた。


そして、低い声で言った。


その声にはさっきのような小さな優しさはなかった。


「ざっとみて13人程度だな……。それなら余裕だ」


その瞬間、強い風が吹いた。


壱の姿はもうルウの隣にはなかった。


俺が呆然としている中チビは、はしゃぎながら壱を応援していた。


「壱ー!頑張れー!」


壱は腰につけていた短剣を慣れた手つきで手にとると、一人、二人と一気に倒していく。


「何だ……あいつ……」


俺の口から言葉がポツリと出ていった。


チビが笑って俺を振り返った。


「壱は和国の王子だけど、暗殺者でもあるんだ。だからあんなに強いんだよ」


そのとき、チビの真後ろに一人の男がたち、剣を振りあげた。


「死ねぇぇぇぇぇぇえええ!!!!」


チビが振り返り、剣をとっさに抜き取った瞬間、背筋がゾクッとする感覚におそわれた。


さっきの一瞬で俺の体はなぜかガクガクと震え始めた。


怖い……?


いや、恐ろしいんだ。


なにかに狙われている、そんな感情を持った。


俺が愕然としている時、壱がチビの前にたち、男を冷たい目でみた。


「俺の妻に手を出すとは……死んでも、いいということだな」


その目をみた男は、ひぃ!と悲鳴をあげて腰を抜かした。


その眉間に壱は剣を向けると、よく通る声で言った。


「愚民共が調子に乗るな」


こ、こえぇぇぇぇぇぇ!!


こいつ、こぇぇぇぇぇ!!!!!


そういえば、さっきの殺気もコイツのか!?


そうなのか!?


っていうか、殺気よりも強い力だったぞ!!


こえぇな、こいつ!!


そのとき、チビが壱を止めた。


「ダメだよ!壱!」


壱が目を眇めてチビをみると、チビは壱の剣を壱の腰にかけてあった鞘に強引に押し戻した。


「人の命、無駄にしたらダメだよ」


昔から変わらないチビの言葉。


俺は何度この言葉に救われたんだろうか……。


ハッとして俺は首を振った。


ダメだ。


もうチビは壱の妻。


あー……。


なんつーか、悲しいもんだなぁ……。


俺が一番チビに近い男だと思っていたんだけど、それも自己満足のようなもんだったんだろうな……。