太陽の竜と闇の青年

「あの、いいの?」


私がどんどん前に進んでいく壱に聞くと、壱は前を向いたまま言った。


「あぁ。いい。もう、あいつには俺は必要ない。一人でも十分やっていけるだろう」


「いや、そうじゃなくて……」


私は足音をたてながら少し小さめの声で言った。


「壱がいいのかどうかだよ……」


すると、壱は立ち止まり、私を凝視した。


「どういう意味だ?」


私はしどろもどろになりながら言った。


「牙城さんがもういいって壱を突き放した時、壱、すごい悲しそうな目してた。本当は嫌なんじゃない?」


すると、壱がさきほど見せた悲しそうな目になった。


「そんな目されたら、牙城さんも困っちゃうよ?」


私はそう言って壱の頬に触れた。


牙城さんは壱のあの目を見て、かなり動揺していた。


やっと決心した心がすごく揺らいでいた。


「……すまない」


壱がそうつぶやいて、私を優しく抱きしめた。


フワッと香の良い香りがした。


壱の吐息が耳にかかる。


「少しだけ、こうしていたい」


私は小さくうなずいて唇を噛みしめた。


牙城さんと壱のためにも、玄武を蘇らすのは成功させないと……。


私の首に下がっていた朱雀の翡翠と、壱の首に下がっていた玄武の翡翠がコツン、と音をたててぶつかった。