「−ギャアア!!」

身の毛もよだつような悲鳴が、薄暮の森を貫いた。

きっと、自分がこの世で最後にあげる断末魔だと。
レネはそう思った。

「おい、早く動け!なにをぼんやりしてる?!」

−違う。生きてる!まだ。無傷で!

声のした方を見上げると、恐ろしく高い木の枝に、赤毛の男が一人立っていた。

「−死にたいのか?!早く走れ!」

…狼たちに先に狙われていた子供。
否、大きすぎるマントで、遠目には子供に見えただけだ。
歳はディニと同じか、上に見える。

−生きてる。なら、さっきの断末魔は?

「走れ!」

彼の左手指が、まっすぐにレネを指した。
その瞬間。

「−ふあっっ!?」

吹っ飛んだ!背中から、真後ろに!
数メートル転がり、木の根につまづいて跳ね上がり、

「なななななななななななななな」

下り坂を限りなく転がり落ちて行く…。
…と、突然壁にぶつかったような衝撃で止まった!

「いったぁ…………く…ない?」

痛くなかった。体中、どこも。岩場の下り坂を、引力の速さで転げ落ちたのに。

「何なの…」

見上げれば、もといた場所は木々に隠れて全く見えない。
狼たちも、あの彼も…