「もう、許して…。お願いだから…」
 嗚咽の中、美佳は必死に懇願した。
「どうして?楽しかったんでしょう。私を踏みにじって…」
 跪いている美佳の顔を覗き込んで、沙保里は「ククククッ」と咽を鳴らした。
 彼女の冷たい瞳を見て美佳の心は凍てついた。
「許して、ですって?あなたたちはあの時、」私を緩そうとはしなかったじゃない?」
 美佳の呼吸が荒くなる。涙が、鼻水が、彼女の顔を伝い、落ちる。
 沙保里は美佳の後ろに回り込み、彼女の耳に唇を近づける。
「苦しかったわよ、あの時。でもそんなことは一瞬で終わる…」
 沙保里は悪意のこもった声で囁く。
「ごめんなさい、私が悪かった。許して、お願いだから…」
 美佳の声は悪意のこもった部屋の中に吸いまれ、消えていく。
 沙保里は立ち上がり再び美佳を見下ろした。「許してあげても良いわよ。あなたの生命をくれるのなら…」
 抑揚のない沙保里の声が美佳を更に恐れさせる。
 その時、机の上に置かれた携帯電話が鳴り、受信メールのメッセージを表示した。
『私は殺された。
   だから、おまえを殺す。』

 一瞬、美佳を抑えていた力が消えた。このチャンスを逃してはいけない。部屋を出なければ…。
 美佳は部屋の扉へと走り、南京錠を外そうとする。けれども登録したナンバーが思い出せない。そんな鍵が一つではなく何個も取り付けられている。もう逃げられない。どうしてこんなことをしたのだろう…。
 美佳の心を絶望が覆い被さった。
 沙保里はそれを見逃さなかった。強い精神力で美佳の体を鷲掴みにして、思い切り窓の方に投げつける。