教室の空気が一瞬、凍り付いた。そこにいた全ての生徒の視線が明美と美佳に集まった。二人はその視線の痛さに耐えきれずに教室を出て行った。廊下に出た途端、二人は教室内と同じ視線が集まってくるのを肌で感じた。どうやら先ほどの悲鳴は教室の外まで聞こえていたらしい。集まった視線が二人の心の中を見透かし、隠していることを引きずり出そうとしていると彼女達は感じた。
 それが更に恐怖を大きくしていった。
 二人は凍り付いたようにその場に立ち尽くした。その時、明美は頭の中に自分を呼ぶ声を聞いた。
 その声は小さく微かなものであったが言葉ははっきりと感じることが出来た。
「誰?」
 不意に擦れた声でそう言った明美に美佳は不可解なものを感じた。
「誰なの?私を呼ぶのは…」
 明美は震える声でそう言いながら惚けたように歩き出した。その視線は定まっていない。足取りは次第に速くなっていく。明美の顔の恐怖が更に大きくなっていく。
「明美、どうしたの?」
 明美の行動に異様なものを感じて美佳は彼女の後を追った。だが先を行く明美は既に走り出していた。その速度は次第に速度を上げていく。それを追う美佳の足も限界に近づいていく。ついに美佳の足は限界を超えた。階段を駆け下りる明美の姿を逃してしまい、美佳は階段の踊り場まで転げ落ちてしまった。 意識が遠くなっていくのを美佳は感じた。