警察からの伊本彩花のことを受けて、緊急の職員会議が開かれ、それが終わった時、教頭が野本と恵子をを密かに呼び寄せて二人に耳打ちをした。「今回のことはまさか『あのこと』とは関係ないな?」
 教頭の声は震えていた。
「ええ、大丈夫だと思います」
 心なし自信のない声で恵子が答える。
「だが、三上響子も伊本彩花もあれに関わっていただろう?」
「いいえ、警察は『あのこと』は自殺で処理しています」
 野本が答える。
 どうやら『あのこと』とは吉田沙保里の自殺のことを指しているらしい。彼女の両親が訴えていたように虐めはあったのだ。吉田沙保里がそれを野本と恵子に相談に来たことが響子達四人に虐められていることを訴えてきたことがあった。それを聞いて野本と恵子は一度は彼女達四人を注意したのだが、虐めはそれでは終わらなかった。再び沙保里が訴えてきたのだが、野本達はその訴えを握り潰してしまった。三上響子の母親がPTAの会長であり、父親はこの地域の名士だったからだ。結局学校側は事を荒立てることを避けたのだ。そうこうしているうちに沙保里が首を吊ってしまったのだ。
 この変死事件の現場には遺書らしきものはなかったのだが、警察の捜査の結果事件性はなく自殺と処理された。
 それ以来、沙保里の死はこの学校では触れてはいけないタブーとされていた。
「しかし野本君『あのこと』に関わっている二人が立て続けに殺されているからな、外部に漏れることはないだろうね?」
「ええ、注意します。残った野川や飯田にも気をつけるように伝えておきます」
 野本の言葉に同意するように恵子は頷いた。