「私達は学校に沙保里が虐められていてのではないかと問いかけました」
「それでどうなりましたか?」
「学校側は虐めはなかったと言いました」
 小島の言葉に真人は感情を抑えていった。隣では美子が肩を震わせて、こぼれ落ちる涙をこぼれるままにしていた。
「何度も学校側に問いかけましたが、答えが変わることはありませんでいた。それから家内は徐々に気を病んでしまい、何度か手首を切るようになりました。私は常に家内の様子に気を配っていなければならなくなり、仕事を辞めざるをおえませんでした」
 真人の声が低く居間の中に吸い込まれていく…。
「ところで昨夜の七時から九時と三日前の八時から十時の間、お二人はどちらにいらっしゃいましたか?」
 小島の言葉に真人は身構える。
「私達を疑っているのですか?」
「いえ、皆さんにお訊きしていることですので…」
 真人はまだ疑っている表情を隠さずに小島に言われた頃に何をしていたか、記憶を辿って言った。
「その時間なら家内も私も家におりました。何しろ家内がこんな状態ですので…」
「それを証明してくれる人はいらっしゃいますか?」
「いいえ、二人以外誰も居ません」
 真人はきっぱりと言い切った。
 小島と恵はやりきれない思いで目の前の夫婦を見つめるしかなかった。

 吉田家を後にした二人はやる切れない思いで帰途についた。吉田沙保里の死には何か引っかかるものがある、二人の思いは一致していた。重たい空気の中、恵が口を開いた。
「吉田夫妻の憎しみはかなり強いものですね」「そうだな、動機としては充分だ」
 小島は沈んだ声で恵の言葉に応えた。