「吉田さんですね?失礼ですがこちらに沙保里さんという娘さんがいらっしゃいませんでしたか?」
 男は触られたくない心の傷を触られてことに不快感を持ったように俯き、二人に答えた。
「ええ、沙保里は家の娘でしたが…」
 男の言葉の語尾は小さくなっていった。
「この春、亡くなられたのですよね。私達はその事についてお話しを伺いたいと思いまして」
 小島は相手を傷つけないように気を配って言った。
 その言葉を聞いた時、男の表情が急に硬くなった。
「今更なんですか?あの時は私達の話を聞いてくれもしないで」
 男の声には明らかに警察に対する怒りが籠もっている。
「あの時は申し訳ありませんでした。今日は亜も件に関してその背景を伺いたいと思いまして…」
 恵は沈んだ声で言った。
 男は暫く考え込んでいたが、やがて意を決したように二人を家の中に招き込んだ。

 家の中は雑然としていた。片付けようとする意識がないのか、物が雑然と散らかっていてうっすらと埃が積もっているように見える。恵はそこに上がるのに躊躇いを感じたが小島が平気で上がっていくので仕方なくその後に続いた。
 家の中は薄暗かった。
 居間として使われているらしい和室に通されるとその空気が深く沈んでいるのが感じられた。
 男は二人を上座に座らせると自分はその向かい側に座った。
 男は吉田真人といった。沙保里の父親である。
「おぅい、美子。一寸来てくれ」
 真人は家の奥に向かって大きな声で言った。 小島と恵は昨夜見た女が美子と呼ばれた人間なのだろうと思った。
 暫くして襖を開けて一人の女がは一人の女が入ってきた。人数分の湯飲み茶碗を手にしている。小島と恵は彼女が咲くや見かけた女であることを知った。
 だが、昨夜とはどこか雰囲気が違っていた。昨夜よりも昨夜よりも痩せ細って見えるのだ。それは何処なのだろうか?小島と恵は彼女をじっと観察して、その答えを得た。
 生気がないのだ。
 外見は余り変わっていないが、目に力がないのだ。