伊本彩花が殺されたことは警察から学校側にも伝えられた。その知らせは野本義男と吉田恵子の胸を深く貫いた。
 三日の内に自分達が受け持つ生徒が二人も同じ手口で殺されたからだ。
「野本先生、一体どういうことなんでしょう?」
 恵子は何かに脅えるように言った。
「僕にも判りません。こんな短い間で僕たちの受け持つ生徒が続けて殺されるなんて…」 野本もまた、この事実が受け入れられず頭を抱えていた。彼女達が何故殺されなければならなかったのか、その理由が判らなかった。 確かに殺された二人の素行は良い方ではなかった。時々親の目を盗んで夜の街で遊んでいることは学校側でも掴んでいた。だが、悪い連中との付き合いはなく、塾をサボってその近くの店で遊んでいるという程度であった。 誰かから特別恨みを買うということも考えにくかった。
 一つのことを覗いて。
「まさか『あのこと』が関係しているのでは無いですよね?」
 一つの可能性に気づいたのか、恵子はそれを口にした。
「そんなことはない、『あのこと』はもう終わったんですよ」
 脅えるようにして野本は恵子の言葉を否定した。