取調室。
 壁を背にして加瀬拓也が座らされていた。彼の前には厳しい目をした刑事が古めかしい机を挟んで座っている。その後ろにはこちらに背を向けて別の刑事がパソコンに向かって二人の会話を記録している。
 加瀬の後ろに鉄格子がはまっている小さな窓がある。そのせいでこの部屋は薄暗く蛍光灯が点けられていた。一方の壁には大きめの鏡が取り付けられている。勿論マジックミラーだ。室内は静まり返っている。
 刑事は鋭い目で加瀬を見つめている。
 加瀬はその勢いに押されたのか、顔を伏せて黙り込んでいる。心なしか震えているようにも見える。
「何故、逃げたんだ?」
 刑事が静かに話しかけたが、加瀬は黙り込んでいる。
「俺達はお前が昨夜何処に居たかを聞きに行っただけなんだぞ。」
 刑事が意識して穏やかに話しかける。
 加瀬は相変わらず俯いている。時折何か話したげに目を上げるが刑事と視線が合うと股下を向いてしまう。案外自供は早く取れてしまうのではないか、刑事は思った。
「もう一度訊くぞ、昨夜の八時から十時までの間、お前は何処にいた?」
 加瀬の視線があてもなく宙を泳いだ。
「部屋にいましたよ。好きなDVDを見ていた」
「それを証明してくれる人はいるのか?」
「いるわけ無いでしょう?一人暮らしなんだから…」
 加瀬はそう言うと口を閉ざした。 
 沈黙は暫く続く、それを破るように、刑事は一枚の写真を机上に置いた。それは学校から借りた集合写真から切り取り、拡大された三上響子の写真だった。その中の響子はカメラを意識しているのか微笑んでいた。
「この子、知っているよな?」
 刑事の言葉に加瀬は視線を写真に視線を向けた。
「誰ですか?この子」
 脅え気味に加瀬が答える。