中等部と高等部の、校舎の真ん中。

 昼休み、絹はそこを目指した。

 実際、行ったことはなかったので、方角だけを頼りに歩く。

 公園のような広場に出た。

 噴水まではないが、植物が植えられ、気持ちのいい景色だ。

 こんなところが、あったのね。

 中等部と高等部の生徒が、ここで混じっている。

 瑞々しい新緑の植え込みを見つめながら、絹は気持ちのいい風を吸った。

「絹さーん!」

 袋を下げて、末っ子が登場だ。

「ベンチ埋まっちゃうーこっち!」

 空いたベンチに荷物を置きながら、彼女を呼ぶ。

 どんな時間でも、テンションが高いな、と感心しながら、近づいて行った。

「はいっ、絹さんの分」

 袋から、本当に彼女の分のお弁当が出てくる。

「ありがとう…」

 男に弁当をもらうとは、変な感じだ。

 セオリーでいうなら、逆だろうに。

「えへへっ、嬉しいな」

 自分の分と、ポットを出しながら、了はご機嫌だ。

「でも、何故お弁当を?」

 絹は、唐突な行動の理由を聞く。

「昨日さー」

 何を思い出したのか、了が唇を尖らせる。

「将兄ぃが、京兄ぃに絹さんの朝のお迎えを提案したんだよね…何で帰りだけなんだ、って」

 あら、真ん中くんも、頑張ってたのか。

 初めて聞かされる内部事情に、絹は隙間を埋めるように、脳内を補完していった。

「京兄ぃが帰り、将兄ぃが行きの提案したから、僕も何かしたいな、って」

 了は、出遅れた自分に不満があるようだ。

 兄たちに張り合いたい年ごろか。

「でも、私の分まで、お弁当を作ってもらうのは、悪いわ」

 さすがに、絹の女としての立場がない。

「えー」

 了は、泣きそうに顔をくしゃっとした。

 自分の提案だけ、拒否されたと思ったようだ。

 こういう顔が、よく似合う子だと、絹は心で微笑む。

「だから明日からは、私もお弁当を作ってくるわ…だから、ここで一緒に食べましょ?」

 ちょっと面倒臭いと思いながらも、これもボスのため。

 絹は、喜ぶ了を見ながら、おいしくお弁当をいただいたのだった。