「まだ…止めますか?」

 チョウが出て行ってしばらく、絹は動けないでいた。

 そんな彼女に、アキが問う。

 もう止められるところなど、ありはしない。

 広井の人間たちは、彼らのやり方で。

 ボスや島村は、マッドサイエンティストとしてのやり方で、行動を始めてしまうだろう。

 でも。

 駒が、足りない。

 絹には、それが分かった。

 平和的組織にはないものが、織田にはある。

 それが動き出してしまえば、どんな平和的行動もひっくり返される。

 そうなったら、きっと命にかかわるだろう。

 誰が傷ついたとしても、絹の中に黒い色が塗られる。

 そして、きっとボスに殺される。

 いや。

 ボスが、一番危ないところにいるのだ。

 もしボスに何かあったなら、絹に生きている価値など──ない。

 それが、「歩」なのだから。

「このままじゃ…」

 足りない。

「ええ…だから、行きましょうか」

 アキが言う。

 え?

「弟たちと、知り合いを呼びました」

 何を。

 アキは、何を言っているのか。

「足りない駒を…増やしに行きましょう」

 手を、差し出される。

 何故、絹を呼ぶ。

 どこへ行くのか。

「私たちは…戦えるでしょう?」

 大きな手。

 違う。

 アキは、こう言っているのだ。

 絹も──戦え、と。