絹の仕事は、毎日各部署を回ること。

 チョウは、いつも一緒にいられるわけではないので、総合秘書の女性がついてくれている。

 おそらく、絹を一人にするな――そういう命令が出ているのだろう。

 一人で大丈夫ですと、さすがの絹も言えなかった。

 いくら広井の会社内とはいえ、本当に侵入しようと思えば、織田派なら可能な気がしたからだ。

 まあ、それはおいておくとして。

「資料ー! パワーポイントの最新の資料ドコー!」

「招待メールのあて先候補、まだ上がってないのか!?」

 温Pは、日に日に殺伐としていく。

 もう公式発表まで、日がないからだ。

 京は、一人もくもくとPCの前で作業をしている。

「発表って、京さんも出るの?」

 とことこっと、彼のところに近づきつつ聞く。

「行くが、表には出ないぞ…オレがやった仕事じゃないからな」

 ふと。

 京が、ピタリとマウスを止めた。

「で…お前は何やってんだ?」

 見上げる目には――少しの不審。

「何って…ええと、各部署の視察?」

「そうじゃない」

 絹の言葉は、即殺された。

「腕にあるアザはなんだ?」

 あらっ。

 制服は、夏服で半そでだ。

 おかげで、アキとのトレーニングでぶつけたアザが「こんにちはっ★」している。

「ぶつけたの」

 うふふっと、絹は猫を背負い込んで微笑んだ。

「おまえなぁ…」

 あきらかに、まったく信じていない目とぶつかる。

「本当よ、運動しててぶつけたの。たまには、身体を動かさなきゃ、ね」

 絹の言葉の最後に、京が一回だけマウスをクリックした。

 カチッ。

「たまに、アキさんと話をしてるよな…お前」

 京の更なる一歩に、絹はもう少しニッコリした。

「一番年の近い女の人が、彼女だけなんですもの…いい人ね、アキさん」

 さあ。

 猫をへっぱがせるものなら、はがしてごらんなさい。

 そんな笑顔をちらっとだけ見て――京は、はぁと呆れたようなため息を吐き出した。