ミキはなぜかモテる。
ヒロシがそう気がついたのは高校に入ってからだった。かわいいかどうかは別として、“最近キレイになったな”と感じた時にはもう彼氏ができていた。
だが、彼氏ができてからもミキのヒロシへの態度は変わらなかった。幼い頃からいつも一緒にいたし、お互いに、些細なことから悩み事まで何でもよく話した。お互いに相手のことは知り尽くしていた。その彼氏…元彼と付き合う時も相談を受けていた。
“だが、今回はなぜ…?最近、ミキに感じる違和感と関係がある?”

「ヒロシ?…どしたの、難しい顔して。」
ミキだ。ヒロシは我に返った。
「どっか具合悪いの?」
心配そうにヒロシの顔を覗き込んでくる。
“なんで話してくれなかったんだろう。”
心の中で彼女に問いかけてみても、勿論、答えなど返ってこない。
「ヒロシ?」
「いや、なんでもない。」
ヒロシはミキに直接聞いてはいけないような気がした。長年の直感というやつだろうか。

「お前、今日部活は?」
「今日はサボり!!ヒロシもサボろ!付き合ってよ。」
ミキは満面の笑みをヒロシに向けた。
「いいのか?先輩のお前がサボったら、1年生に示しつかないだろ。」
この時期、3年生はもう引退していて、部活のトップにたつのは2年生である自分達だった。
「いいの。今日は3年生が来てくれてるから。」
ミキの顔が少し曇ったように見えた。
ヒロシはそれを見て見ぬ振りをした。その3年生の中にあの先輩もいるはずである。
でも、どうもミキに対して知らぬ振りをするのは罪悪感があった。言わない方が“優しい”というのかもしれないけれど。
ヒロシは思いきって風船をつついた。
「3年生って…お前の彼氏いるんじゃないのか?」
ミキの顔から笑顔が消えていた。
「ミキ?」
ミキは気まずそうに口を開いた。
「別れたんだ…ちょっと前に。」
ミキの口から実際に聞いて、“はい、知ってます”と言うわけにもいかず、ヒロシは、どうしてよいのか分からずにいた。
「別れたのって、いつの話?」
ミキはさらに気まずそうに口を開く。
「夏休み終わって、学校始まった頃…かな?」
“9月か。”
ヒロシがミキに何かを感じ始めたのもちょうどその頃だった。
ヒロシが言いたいことはミキは分かっていた。
「ゴメン、黙ってて。なんか…ヒロシには言えなかったんだ。」
ミキがそう言ったアト、しばらく二人の間に沈黙が流れた。

「帰ろうか。」
沈黙を破ったのはヒロシの方だった。
「うん。」
帰り道、お互いにいつもに比べると恐ろしく口数が少なかった。