「転んだら面倒だろ」


消えてしまいそうな小さな声。
でも、あたしにはバッチリ聞こえていて…。


優しいなぁ、と思いながら笑顔で言う。


「ヒカル」
「ん?」
「ありがとう」
「…あぁ」


照れたような返事に、あたしはまた頬を緩めた。





▲▽▲▽▲▽▲▽▲




ヒカルが連れてきたのは、数時間前まで滑っていたスキー場だった。


「ヒカル」
「ん?」
「こんな時間に来ても滑れないよ?」
「んなこと、わかってるよ」


呆れた顔をしてそう言うと、ゲレンデのほうを向く。


「見せたいものがあったんだよ」
「?なにを?」
「あと5分待って」
「?」


ほぅっと息をはけば白くふわっと消えていく。

さっきまで眠かったのも、寒さでそれも消えていく。

真っ白な景色の中に、あたしとヒカル二人っきりで。あたしたちしかいないみたいで、変な感じ…。