「だって私、壱人君の弱味につけ込んだよ?」
「弱味?」
「……心菜さんが陽呂と上手くいって。
その時、わざとそばに居たんだもん。
だから……もし、そばに居たのが私じゃない他の誰かでも…」
その先に言いたい事がわかってしまって。
――ゴンッ
「ばーか」
俺の頭突きと、言葉は、ほぼ同時だった。
「い、った」
「当たり前。
沙耶ちゃんが、わけわかんねーこと言うから悪い」
「で、でもっ」
「誰でも良かったわけじゃない。
沙耶ちゃんだったら、だろ?」
好きな奴が、他の人を好きなのを見てるのって、どんなに辛いか知ってる。
それを俺みたいな悪あがきしないで、ずっとそばで見守っていてくれた沙耶ちゃんだから。
だから、恐い。
沙耶ちゃんが俺から離れていかないかなって。
沙耶ちゃんが他の奴を好きにならないかなって。
林に言われて気付いた時から恐くて恐くて、仕方なかったんだ。
今まで気付けば隣に居てくれているのが当たり前で。
俺を追いかけてくれてた沙耶ちゃんだったのに。
いざ向き合うと、どうすれば良いのかわからなくなった。
だから、何も言えなくなって。
かっこ悪い俺を見せたくなくて隠してたんだと思う。

