電車の音も聞こえなくなり、
彼が口を開いた。

「あの…本当にごめんなさい。 
 誰かに電話してたよね?
 携帯貸すからかけていいよ。」

そう言うと彼はあたしに携帯を向けた。

「い、いいです。
 家近いんで電話しなくても帰れます。」

あたしは動揺している心を読まれる前に
ここから立ち去ろうと思った。

「電話しないと家族のみんな心配するよ?」

彼は優しい笑顔で携帯を渡してきた。

「じゃあお借りします…」

彼から借りた携帯で
お母さんの電話番号を打とうとした瞬間、

「充電がありません。シャットダウンします。」


と表示され画面は真っ暗に。


………???

ボタンをタッチしても真っ暗なままの彼の携帯電話。

どうやら充電がきれたようだ。

この状況に彼もあたし以上に焦っている。

「もう、本当にごめん!
 危ないから送るよ、家どの辺?」

少し張った声で携帯をしまいながら尋ねてくる。

「歩いて15分くらいのところです…」

そう言うと彼は、

「よし!行こ♪」

といってあたしの腕を引っ張って

どっち?

とジェスチャーしてきた。

あたしは左を指差して彼の顔を見ると、
暗くてもわかる可愛い笑顔にドキドキしてしまった。

そのまま彼が前を歩きながら口を開いた。

「あのさ、今頃なんだけど名前なんていうの?」

「有梨 理央です。」

普通に返すと今度は

「高校生だよね?学年は?」

「一年です。」