何も言わずに俯いていた私。
沈黙が支配する部屋。



『…ごめん。
変なこと言って。
俺には関係ないことだよね』

先に沈黙を破ったのは蒼だった。


「私こそ、ごめんね…。
ハッキリしなくて。

あ、蒼は?
彼女とか出来たんじゃないの?」

少しでも会話を繋ごうと、似た話題を返す。

蒼から一瞬、
表情が消えた。


『俺も。
彼女なんていないよ。
好きな子なら…いるけど』

蒼が哀しそうな笑みを浮かべる。


私はそこで、ようやく自分が触れてはいけない話題を口にしたことに気付いた。




「ごめん…。
蒼、ごめんね?
わざとじゃないの…」

『いいよ。
気にしないで。
俺が未練がましいだけだからさ』

そう言って微笑む蒼。

やっぱり哀しそうな瞳。


よく見ると、蒼の右耳にはまだあのピアスが付けられていた。


「やっぱり…
まだ、好きなの?」

聞いてはいけないと思いながらも、私は小声で言葉を紡いでいた。


『美咲のこと?』

蒼の口から出たのは、久しぶりに耳にする名前。

同時に哀しみと諦めが見え隠れする表情に、優しさの色が混じる。



――美咲。

彼女も私達と同じ中学。

どちらかと言えば、私は仲良しだったと思う。

そして、
彼女は――




『好きだよ。
まだ今でも…大好きなんだ』

蒼の幼馴染みであり、
恋人でもあった。

愛しそうに呟く蒼。

何て言っていいか分からず、私はまた返す言葉につまってしまった。